労働審判
1 早期解決を目指す手続き
労働審判とは、経営者側と労働者側の争いを解決するために労働審判法に規定された手続きで、司法制度改革により導入された制度としては、最も成功した制度ともいわれています。
労働審判に持ち込まれる争いの類型としては、解雇、懲戒処分、配置転換、降格処分の無効を求めるものや残業代請求等が挙げられ、労働者側からの申立てが大半です。
裁判所で行われる点は通常の訴訟と同じですが、手続きの中身は大きく異なり、お互いの主張や立証を厳密に行う要素は後退し、早期の解決を重視し、お互いの妥協点を見出すことに主眼が置かれていますが、通常訴訟に移行した場合の見通し等も裁判官から随時開示されることもあります。
労働審判申立書が裁判所から経営者側に届いた時点で、1か月程度先に第1回目の期日が設定されているのが通常で、ウェブ会議で行われることもあります。
訴訟の期日が10回以上に及ぶことも少なくないのに対し、労働審判は原則として3回までしか行われません。
2 当事者本人が出席する
訴訟は基本的に代理人だけが出席して、主に書面のやり取りで進行するのに対し、労働審判には、労働者本人や経営者、上司といった事件の当事者が出席する必要があります。
また、訴訟は裁判官が審理を担当するのに対し、労働審判では、裁判官1人と民間から選ばれた労働審判員2人からなる労働審判委員会が審理を進め、代理人だけでなく直接当事者とやりとりをすることもあり、基本的には話し合いでの解決を目指します。
3回目の期日までに合意ができなければ、労働審判委員会が労働審判を出し、「申立てを棄却する」、「会社は○円を払え」等と命じて手続きが終了します。
この審判に当事者が納得いかない場合は、異議申し立てをすると、通常の訴訟に移行します。
3 第1回期日に向けた準備が重要
労働審判の期日には経営者や上司といった当事者が出席する必要がありますが、単に多忙だからといった理由で日程を変更してもらうことは原則としてできません。
また、労働審判委員会は、第1回期日の時点で心証を固めてしまうことが実務上一般的であることから、第1回目の期日までの反論の準備が非常に重要です。
十分な反論ができない場合には、不利な流れで手続きが進行してしまう可能性もあります。
このように、第1回期日までに有効な反論、有利な証拠集め・整理等が求められることから、労働審判申立書が届いたら、すぐに弁護士に相談することが大切です。
労働審判は、事案の早期解決が図れる等の理由から労働者側からの利用が進んでいますが、経営者からすると、その対応は経済的にも精神的にも大変な負担となります。
また、正しい労働法の知識や解釈を踏まえた主張でなければ労働審判の場では通用しないため、会社で対応をしようとしても的確な解決とならない可能性もあります。