解雇トラブル対応
新型コロナ影響下での雇用調整
売上等の減少により企業の経営状態が悪化した場合、一般的には、様々な経費節減、賞与や給与のカット、休業、希望退職の募集等を行い、それでも経営不振が続き倒産の恐れもある場合には、従業員の解雇を検討することになります。
経営不振を理由とする解雇は整理解雇と呼ばれ、その有効性は①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③人員選定の合理性、及び④解雇手続の妥当性の4つの要素から総合的に判断されますが、勤怠不良や能力不足等、従業員側に原因がある通常の解雇よりも厳格に判断される傾向にあります。
新型コロナウィルス感染症の流行にともなう経営不振の場合、雇用調整助成金の支給額が拡充され、支給要件も緩和されていることから、まず雇用調整助成金を利用した休業等を検討すべきでしょう。
整理解雇を検討せざるを得ないとしても、解雇回避の努力として、少なくとも雇用調整助成金の利用を検討することが求められると考えられます。
新型コロナの影響下において、雇用調整助成金が利用可能であったにもかかわらず利用しなかったことを理由に、整理解雇を無効とした裁判例(仙台地裁令和2年8月21日決定)があります。
派遣労働者の期間途中の「解雇」
1 派遣元と派遣先との派遣契約が解約され、それに伴い、派遣元が派遣労働者との労働契約
を一方的に解消する場合には以下の点について注意する必要があります。
すなわち、派遣元と派遣労働者との契約が無期の契約である場合には、通常の解雇権濫用法理がそのまま適用されることになります。
一方で、派遣元と派遣労働者のとの契約が有期の契約である場合には、有期労働契約における期間途中の解雇となるため、労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」が必要となります。
「やむを得ない事由」とは、通常の解雇権濫用法理よりもさらに厳格に解すべきであり、期間満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような重大な事由を要すると考えられています。
宇都宮地裁栃木支部平成21年4月28日決定は、派遣先の派遣契約解除を理由とする期間途中の解雇について、整理解雇の4要件に即して判断をした事例として参考になります。
2 派遣元としては、派遣先と連絡を密に取って、慎重に資料を収集しておくべきであり、顧
客である派遣先の手を煩わしてまで解雇するか検討するべきであり、また、当該労働者を他の派遣先に派遣する可能性や、派遣元が自社で使用する可能性について検討したうえで、労働者の資質に重大な問題があること等から、期間途中で解雇することもやむを得ないと評価できるだけの事情を提示するべきとの指摘もあります。
なお、派遣先と派遣元との派遣契約が期間途中で解約された場合、派遣元の派遣労働者に対する給与支払義務については、民法536条2項が適用されるか否か、労基法26条に基づく休業手当の支払義務が肯定されるかが問題となります。
試用期間と本採用
試用期間とは、本採用の前に、使用者が、労働者に従業員としての能力・適性等があるかを判断するために設ける期間です。
試用期間中であっても、資格取得の要件を満たしている場合は、社会保険・労働保険の資格取得が必要です。
試用期間の長さについて、法律に定めはありませんが、一般的には、2か月から6か月くらいの試用期間を設けている会社が多いようです。
試用期間は延長することができますが、あらかじめ就業規則で規定しておく必要があります。
なお、あまりにも長い試用期間は認められないことがあります。(1年間の試用期間が認められなかったという判例があります。)
また、試用期間中は、解約権留保付労働契約が成立していると考えられます。
解約権留保付労働契約とは、解約権(解雇権)が保留されている労働契約であり、通常の解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認められているものの、客観的に合理的な理由がある、社会通念上相当であるという解雇が認められるための要件は変わりません。
では、どのような場合に、保留されていた解約権の行使ができるのでしょうか。
裁判例では、「会社が採用決定後における調査の結果により、または使用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に相当であると認められる場合」としています。
よって、試用期間中であるからといって、安易に辞めさせることはできません。
なお、試用期間中に解雇を行う場合、試用期間が14日以内の場合は、解雇予告をする必要はありませんが、14日を超えて引き続き雇用している場合は、解雇予告が必要です。
一度労働者を採用すると試用期間中であっても、解雇をすることは簡単ではありません。
解雇をお考えの場合は、労働者とのトラブルを回避するために、弁護士法人心へご相談ください。
解雇と退職、雇止めの違い
民法では、期間の定めのない雇用契約(いわゆる無期労働契約)の場合、使用者と労働者はどちらも一方的に解約をすることができるとされており、使用者の側から解約することを解雇、労働者の側から解約することを辞職と言います。
退職は幅が広い概念で、労働者と使用者が合意の上で雇用契約を解除する合意退職、定年退職や死亡退職、そして辞職を含めて、解雇以外の労働契約の解消を指して使われます。
辞職する場合、その理由に特に制限はありませんが、解雇の場合は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効とすると労働契約法に定められています。
労働者が使用者よりも弱い立場であることを踏まえて民法の原則を修正し、解雇に高いハードルを課しているのです。
そこで、解雇が難しいと考えられる場合、使用者が労働者に退職するように説得することがあり、これを退職勧奨と言います。
退職勧奨をするのは使用者の自由ですが、誤った情報を与えて労働者を誘導したり、大声をあげて脅したり、部屋に長時間拘束して退職を迫る等の行為を行うと、その結果の退職は無効とされることになりますので、慎重に行う必要があります。
期間の定めのある雇用契約(いわゆる有期労働契約)の場合は、使用者と労働者はどちらも、やむを得ない理由がなければ期間の途中で一方的に解約をすることはできず、これは、使用者にとっては解雇の場合に必要とされる「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」ことよりも厳しい制約であるとされています。
有期労働契約が終了し、使用者が契約を更新しないことを雇止めといい、事前に更新するとの約束がなければ、特に問題はありません。
ただし、更新が繰り返されることにより実質的に無期労働契約と同視できる場合や、労働者側が契約が更新される期待を持つことに合理的な理由がある場合、労働者が更新の申込をすれば、使用者は雇止めをすることができません。
無期転換について
無期転換とは、平成25年4月1日以降に、同一の使用者との間で締結された有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、無期労働契約に転換できるというものです。
労働者が申込みをした場合、無期労働契約に転換されるのは、申込時の有期労働契約が終了する日の翌日からとなります。
例えば、平成25年4月1日から1年契約の有期労働契約を反復更新し、平成30年3月31日に通算契約期間が5年となった労働者が、平成30年4月1日から平成31年3月31日までの間に無期転換の申込を行った場合、平成31年4月1日から無期労働契約が成立します。
また、同一の使用者との間で労働契約を締結していない期間(以下、無契約期間という)が一定以上続いた場合、それ以前の有期労働契約期間は通算対象から除外されます。
無契約期間前の通算契約期間が1年以上の場合
無契約期間が6か月以上の場合無契約期間前の有期労働契約は通算されません
無契約期間が6か月未満の場合無契約期間前の有期労働契約も通算されます
下表に該当する場合は無期契約期間前の有期労働契約は通算されません。
無契約期間前の通算契約期間 無契約期間
2か月以下 1か月以上
2か月超~4か月以下 2か月以上
4か月超~6か月以下 3か月以上
6か月超~8か月以下 4か月以上
8か月超~10か月以下 5か月以上
10か月超~1年未満 6か月以上
無期労働契約の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間等)は、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一となりますので、無期契約労働者=正社員ではありません(もちろん、無期転換を機に正社員としても構いません。)。
正社員と無期契約労働者の両者が在籍する場合には、正社員用の就業規則とは別に無期契約労働者用の就業規則を作成する必要があります。
無期契約労働者用の就業規則を作成していないと、労働条件をめぐり、無期契約労働者とトラブルとなる可能性がありますので、きちんと規定しておくことが必要です。
弁護士法人心では、就業規則作成のご依頼も承っております。
また、無期転換を避ける目的として、有期労働契約の通算期間が5年を超える前に雇止めを行うことは、労働契約法の趣旨に反し、望ましくありません。
有期労働契約の更新回数や更新年数に限度を設けたとしても、雇い止めをすることが認められない場合もありますので、詳しくは弁護士法人心にご相談ください。